慎重さを地味な美徳だと侮らずに正面から向き合え
医療の分野で働くと決めたのであれば、まず慎重さという言葉の重みをしっかり受け止めてほしいと思います。人の暮らしに近いものを扱う場所では、思い切りの良さよりも確かめる力のほうが先に求められます。
若い時期には、素早く動ける人や大胆に決められる人のほうが目立って見えてしまうかもしれません。けれどもこの分野で長く信頼を集めているのは、確かめるべきことを決して飛ばさない人のほうです。
慎重さは、生まれ持った性格の問題ではなく、身につけることのできる技術だと考えてほしいところです。手順を持ち、道具を整え、習慣として続けることによって、誰でも確かめる力を育てることができます。
侮ってはいけないのは、慎重さを欠いた一つの見落としが、多くの人の手間を生んでしまうという点です。後から直す手間は、前もって確かめておく手間の何倍にもなって返ってくることが少なくありません。
決められた手順を踏むことが求められる場面では、省こうとする気持ちを抑えておく必要があります。急ぎたいときほど省きたくなるものですが、その誘惑に負けない構えを持っておいてほしいのです。
小さな会社では働く人数が限られているため、確かめる目が自然に少なくなってしまいがちです。だからこそ一人ひとりが自分の中に確かめる仕組みを持っておくことが欠かせなくなってきます。
慎重であるということは、進むのが遅いことと同じではないと、はっきり覚えておいてほしいと思います。何を確かめるのかが定まっている人の作業は、迷いがないぶんかえって速く進んでいくものです。
侮らずに向き合うとは、慎重さを面倒な決まりとしてではなく、自分を守る備えとして捉えることです。確かな備えがあれば思い切って前へ進めるようになり、かえって挑戦できる幅が広がっていきます。
この章から、慎重さをどのように育てていくのかについて具体的に呼びかけていきたいと思います。読んだその日から一つでも取り入れてもらえるように、実際の手立てを中心に並べていきます。
まず今日から、自分が何を確かめずに進めてしまっているのかを一度書き出してみてください。書き出してみるだけで、思っていたよりも多くの前提を確かめずにいたことに気づけるはずです。
確認の手順を自分だけの型として磨き上げていけ
確かめる力を育てるための第一歩は、自分なりの確認の手順を型として決めてしまうことです。その場の思いつきで確かめていると、忙しい日には必ずどこかが抜け落ちてしまうことになります。
型を作るときには、これまで自分がつまずいてきた場面を思い出すところから始めてください。過去のつまずきは、自分がどこを見落としやすいのかを教えてくれる何よりの手がかりになります。
型は長い一覧である必要はなく、三つか四つの観点にまとめておくほうがずっと続けやすくなります。数が多すぎる一覧は、確かめること自体が目的になってしまい、かえって形だけになりがちです。
医療に関わる仕事では、決められた手順を踏む必要のある場面が随所に置かれていると言われます。その手順と自分の型を重ねておけば、抜けが起きにくくなり、進み方そのものも安定していきます。
型は一度作って終わりではなく、使いながら少しずつ育てていくものだと考えてほしいところです。新しいつまずきに出会うたびに観点を足していけば、型は自分だけの確かな財産になっていきます。
型を紙や画面に書き出しておくようにすると、忙しい日であっても同じ質を保てるようになります。頭の中だけに置いておくと、疲れている日には必ずどこかが抜け落ちてしまうものだからです。
型を持っている人は、確かめ終えたという区切りをつけられるため、迷いを引きずらずに済みます。区切りをつけられない人は、いつまでも不安を抱えたまま次の作業へ進むことになってしまいます。
自分の型がある程度固まってきたら、周囲の人にも見せて意見をもらってみてほしいものです。別の視点から観点を足してもらえると、自分では気づけなかった穴が少しずつ埋まっていきます。
型は仕事の種類が変わっても応用が利くため、新しい役割へ移ったときにも支えになってくれます。観点の中身は少しずつ入れ替わっていっても、確かめるという構えそのものは変わらないからです。
今日の作業から、自分の型を一つ書き留めるということを始めてみてほしいと思っています。小さな一歩ではありますが、一年後には見違えるほど確かな仕事ができるようになっているはずです。
速さと慎重さを両立させるための工夫を持ち歩け
慎重さを求められる場所であっても、速さを諦める必要はまったくないと知っておいてください。両立させている人は、自分で確かめる場所と人に任せる場所とを上手に切り分けているだけです。
すべてを同じ深さで確かめようとしてしまうと、時間はいくらあっても足りなくなってしまいます。影響の大きい部分は手厚く確かめ、そうでない部分は軽くするという配分が要になってきます。
配分を決めるためには、何が起きてしまうと困るのかを先に思い浮かべておく必要があります。困ってしまう場面から逆算していけば、どこを厚く確かめるべきかがはっきりと見えてきます。
もう一つの工夫は、確かめる作業をまとめて行い、頭の切り替えの回数を減らすということです。作業のあいだに確認を挟んでいくと、そのたびに集中が途切れ、全体の時間が延びてしまいます。
医療に関わる領域では、待ち時間の生まれる場面も多く、その間の使い方が速さを左右します。待っているあいだに次の準備を進めておけば、全体の進み方は確かに速くなっていくものです。
速さを求めるあまり、決められた手順を飛ばしてしまうことだけは避けてほしいと強く思います。手順を飛ばして得た速さは後から必ず取り返され、結局は遠回りになってしまうものだからです。
慎重さを保ちながら速く進むためには、道具や書式をあらかじめ整えておくことも有効になります。毎回はじめから作らずに済む形にしておけば、確かめるための時間を落ち着いて確保できます。
一人で抱える作業を減らしていくことも、速さと慎重さを両立させるための大切な工夫になります。早めに人へ渡しておくようにすれば、確かめる目の数が増え、自分の負担も軽くなっていきます。
焦っていると感じたときには、いったん手を止めて順番を組み直してみてほしいところです。焦りのまま進めた作業は、後から見返すと抜けが多く、直す時間のほうが長くかかってしまいます。
速さと慎重さは対立するものではなく、工夫によって同時に手に入れられるものだと言えます。その工夫を自分の持ち物として蓄えていく姿勢を、ぜひ今日から始めてほしいと思っています。
慎重さを一人で抱え込まずに周囲と分かち合え
どれほど注意深い人であったとしても、たった一人の目だけで見落としをなくすことはできません。だからこそ確かめるための仕組みを職場全体で持つことを、強く呼びかけたいと思っています。
分かち合うための第一歩は、自分の確認の観点を周囲から見えるようにしておくことになります。見えるようになっていれば、誰かが足りない観点に気づいて声を掛けてくれるようになります。
二つ目は、確かめてほしい点を具体的に伝えたうえで、人に見てもらうという習慣になります。漠然と見てほしいと頼むよりも、観点を添えるほうが得られる助言は確かなものになります。
医療ベンチャーのような小さな組織では、役割の垣根が低く、互いに見合う関係を作りやすいと言えます。この距離の近さを生かして、気づいたことを気軽に伝え合える空気を育ててほしいと思います。
見落としが見つかったときに責める空気があると、人はそれを隠すようになってしまいます。早い段階で分かったことを歓迎する空気があってこそ、確かめる仕組みは働き続けてくれます。
分かち合いは記録によっても支えられており、書き残したものは次に関わる人の目にもなります。判断の理由まで書き残しておけば、後から見返した人が別の角度から気づいてくれるようになります。
慎重さを一人で抱え込む人は、いずれ疲れてしまい、確かめる力そのものが鈍っていきます。抱え込まずに人へ預ける勇気を持つことも、この分野で長く働くための大切な力になります。
新しく入ってきた人にこそ、確かめるための型を早い段階で渡してあげてほしいと思います。型を渡された人は迷いが減り、早い時期から落ち着いて力を発揮できるようになっていきます。
分かち合う文化のある職場では、慎重さが個人の負担ではなく組織の強みへと変わっていきます。その強みは外から見ていても伝わるものとなり、そこで働く人の誇りにもつながっていきます。
ぜひ今日から、自分が確かめている観点を一つでもよいので誰かへ伝えてみてほしいと思います。伝えた観点が誰かの助けになったとき、慎重さは確かに広がっていくのだと実感できるはずです。
慎重さをこれからの自分の強みとして育て上げよ
慎重さは、身につけるまでに時間がかかるぶん、他の人に真似されにくい強みになっていきます。数年をかけて育てた確かめる力は、どの職場へ移っても必ず求められるものになっていきます。
強みとして育てていくためには、自分の慎重さを言葉にできるようにしておく必要があります。何をどのように確かめているのかを説明できる人は、周囲からの信頼を早く得られるようになります。
面談の場においても、慎重さについて具体的に語れる人は相手に強い印象を残すことができます。失敗を防いだ経験よりも、確かめる手順を持っているという事実のほうが相手に伝わりやすいのです。
医療ベンチャーの働きやすさを並べたランキングを眺めても、慎重さの育て方までは書かれていません。順位を追いかけるよりも、自分の中に確かめる力を積み上げるほうがずっと確かな備えになります。
慎重さを育てるうえで避けたいのは、確かめること自体が目的になってしまうという状態です。何のために確かめるのかを見失ってしまうと、手順だけが増えて仕事が重くなってしまいます。
目的を見失わないためには、確かめる観点を定期的に見直すための時間を持つことが役立ちます。使われなくなった観点を外していくことも、型を生かし続けるためには欠かせない手入れです。
慎重さが強みになった人は、難しい場面であるほど落ち着いていられるようになっていきます。落ち着いていられるのは、何を確かめれば前へ進めるのかを知っているからにほかなりません。
その落ち着きは周囲にも伝わっていき、混乱した場面をまとめる役目を任されるようになります。任される機会が増えていくほどに慎重さはいっそう磨かれ、経験の幅も大きく広がっていきます。
慎重さを育てていく道のりは地味なものですが、確実に前へ進んでいると感じられる道でもあります。昨日より一つ多く確かめられたという実感が、日々を支える静かな喜びになってくれるはずです。
失敗の許されない領域を選んだのであれば、その厳しさを自分の強みへ変えていってください。厳しさの中で育てた力は、これから先どのような場所においても必ず自分を支えてくれます。
まとめ
医療の分野で働くと決めたのなら、慎重さを身につけられる技術として捉え直してほしいと思います。性格の問題ではないのだと知った瞬間から、確かめる力は誰にでも育てられるものへ変わります。
確認の手順は三つか四つの観点にまとめ、自分だけの型として磨き上げていってほしいものです。型は使いながら少しずつ育っていき、役割が変わったときにも確かな支えになってくれるはずです。
速さと慎重さは対立するものではなく、確かめる場所と任せる場所を切り分ければ両立できます。待ち時間の使い方や書式の備えといった工夫も、速さを取り戻すための助けになってくれます。
一人の目には限りがあるため、確かめる観点を周囲と分かち合う仕組みを持ちたいものです。見落としが早く分かったことを歓迎する空気があってこそ、その仕組みは長く働き続けてくれます。
慎重さは真似されにくい強みであり、それを言葉にできる人ほど早く信頼を集めていきます。並んだ順位を追うよりも、確かめる力を自分の中に積み上げるほうがずっと確かな備えになります。
確かめること自体が目的にならないよう、観点を定期的に見直す時間も持ってほしいものです。使われなくなった観点を外していくという手入れが、型を長く生かし続けることにつながります。
失敗の許されない領域を選ぶということは、自分を鍛える場所を選ぶことでもあると言えます。その厳しさの中で育て上げた慎重さは、これから先どの場所にいても必ず自分を支えてくれます。